この記事の概要を簡単まとめ!
- CPUが与えるGPUへの影響は大きいと判明した
- GPUが電圧調整できるならCPUも行えるはず
- 基本はUEFIから操作するがリスクが高く調整も面倒である
- TechPowerUpが外部から電圧を操作できる”ThrottleStop“を提供していた
- 操作が簡単で、即時反映するので確認も調整もしやすい
- 効果:定格時は効果があったがターボブーストにはあまり意味がない?
- 電圧操作は定格運用向き、本格運用はクロックも合わせて変動させるべき
夏が暑すぎ、冬が寒すぎ、人間が生きるには到底適さない環境と化している世界。もはや地上は生活圏でなく、地下か宇宙へと向かわなければならない時期が来ているのではないだろうか。そしてその環境はPCにも過酷であり、特に暑い時期には熱が通常より溜まりやすく、破損の原因となりやすい。
これまではGPUを中心に熱を下げてきたが、CPUについては明確な方法を探せなかったため実施していなかった。それも今日で終わり。GPU-Zでお馴染みのTechPowerUpが外部からCPU電圧を操作できる”ThrottleStop”を提供していた。これを使うことで低リスクで電圧を下げられるので、試すことにした。
ひとっ飛びできる目次
CPUも電圧を下げれば便利になる
CPUをもっと快適に使う
CPUが与えるGPUへの影響
前回記事は、CPUクロックがGPUに与える影響についてである。検証ルールとして、使用したユニットはi7-9700とRTX 2080Tiで、GPUクロックと電圧を固定し、CPUクロックの最大値を変化させることによってベンチマーク結果に変動が発生するかを見た。i7-9700はベースクロック3.00GHz, ターボブースト4.70GHzであり、ベースクロック、ターボブースト、ベースクロックの84%(2.50GHz)の3パターンでFFXVベンチマークを実施。結果は大きく差が出て、ターボブーストの場合はベースクロックの1500以上のスコア差が発生し、ターボブーストと84%でも1000以上のスコア差が発生した。
このことから、CPUがGPUに与える影響は大きく、いくらGPUが強くてもCPUが弱いとその性能を十分に活かしきれないということを証明した。したがって、CPUとGPUはセットで考えて運用すべきであり、これによりマザーボードと電源もセットで考える必要がある。最終的にはRAMもセットで考える必要があり、結局ほぼすべてのパーツが構成に関わってくることとなる。
とはいえ実験記事において考察したように、使用中のマザーボードが当たりであるとかなり長持ちするので、なかなかCPUのアップグレードができないということがある。マザーボードのソケットの規格と使用するチップの関係で使用可能なCPUの世代が限定され、場合によっては既にCPU自体が生産中止になっており、「当たり」の中古品を探すしかないというのが現状である。だが総じてその価格は高いものになっている。かといってマザーボードとCPUをセットで更新するのにも高い費用が掛かるので、そうそう更新は簡単ではないのである。
電圧調整はCPUでも出来るはず
これまで対象をGPUに注目して実験を行ってきたが、それはGPUが外部から電圧やクロックを制御しやすいということから行っていたためである。そしてPCをゲーム用途で使用する人はGPUの情報を求めていることが多く、情報が集まりやすくネタにしやすいというのがある。この関係でこれまでGPUを中心に解説記事を取り扱ってきた。
しかしGPUでクロックと電圧が調整ができるなら、CPUでもクロックと電圧の調整ができるはずである。それはオーバークロックという言葉が示しているように、メーカー保証以上のクロックを出せることから導き出している。同時にGPUの時にそうしたように、CPUでも逆のことができるはずだ。つまり、クロックや電圧を下げることだ。
この操作は基本的にUEFIから行うものであるが、OSから操作するものではないので設定後の確認と再度の調整が面倒で手間がかかり、しかも調整に失敗するとUEFIすら起動しなくなる危険がある。この場合はCMOSクリアの処置が必要になる。また、PCの高度な知識(BIOS/UEFIの基本ソフトウェアに関するもの)やインターネット上に転がっている情報を専門的レベルで精査できるかどうかも成功に関わってくる。このことは非常に高度であり他にやることもある。UEFIで地道に調整している時間などなく、加えて調整失敗でCMOSクリアを実行する羽目になったのでこの方法は挫折することになった。
TechPowerUpが外部から操作できるツールを提供
そこで一旦、UEFIからの操作は考えず、Windowsから操作することができないか調査した。これはMSIがAfterburnerでGPUを操作したのと同じように、CPUについても操作できるソフトウェアやツールが存在するはずだという前提での調査である。そしてそれは探せばすぐに見つかった。
GPU-Zでお馴染みのTechPowerUpは、他にもゲーミングデバイスに関する情報や、多数のソフトウェア・ツールも提供している。その中にThrottleStopがあり、CPU全体の調整を行えるツールとなっていた。主にオーバークロックのためのツールであるが、その逆のダウンクロックにも対応しており、電圧を調整する機能、最大消費電力ベースで調整できる機能がある。インストールも簡単である。
残念ながらThrottleStopに関する資料は日本語では少なかったものの、ガバガバな翻訳日本語ながらも海外のユーザーが使用方法を解説しているものがあった。それに従って設定していくことによって簡単に電圧調整(マイナスオフセット)を行うことができ、他にワットベースでの調整も可能となっている。これを使い、低電圧化によって発熱や低消費電力を実現する実験を行っていく。
ThrottleStop 実証実験
!警告!
これより先の内容は、通常は行わないCPUクロックや電圧を変更する行為を行っています。これはメーカー保証外の行為であり、実行することによって発生するいかなる事象、障害やPCパーツの破損等について一切のサポートが受けられなくなります。また、このことについて質問や苦情はお受け致しません。当方は一切の責任を負いかねますので、それに同意できる方のみ読み進めてください。
ThrottleStopのダウンロード
ThrottleStopはインストーラは存在せず、ZIP形式のポータブルタイプである。先のリンクからTechPowerUpの公式サイトのThrottleStopのダウンロードページへ飛び、ダウンロードリンクをクリックする。そのリンク先のページでダウンロードするサーバーを選択するのはTechPowerUpのツールではお馴染みのものである。
ダウンロードしたZIPファイルを解凍し、そこにあるすぐに使える実行ファイルをダブルクリックですぐに使用できるものとなっている。以降はThrottleStopの解説となる。
VIDの変更
ThrottleStopで変更できる内容は多岐にわたるが、今回の目的は電圧を下げることである。まずはラジオボタン2番目の”Game”に設定を変更し、その右側にある”FIVR”をクリックし、以下の操作を行う。
FIVR Controlと各種値の変更
FIVR Controlには変更可能な項目種別が5項目ある。
- CPU Core
- CPU Cache
- System Agent
- Intel GPU
- iGPU Unslice
このうちCPU Core, CPU Cache, Intel GPUの3項目について電圧を変更する。選択した項目の下に電圧操作の項目があるので、まずは”Unlock Adjustable Voltage”のチェックボックスをチェックして変更可能にする。
ここで操作するのは”Offset Voltage”のみである。それ以外の電圧操作は行わない。この電圧を操作することでCPU全体の電圧を変更することができる。今回は下げる目的で変更する。ただし下げすぎると変更を適用した時点でフリーズし、強制電源停止以外のすべての動作を受け付けなくなる。多くの場合100mV下げても動作するので、基準として-100mVから開始し、そこから少しずつ下げていくのが理想である。
設定を確定したら、右下の”Save Voltage Changes”で、”OK – Save voltage immediatelty.”にラジオボタンをセットしてOKすることで保存し適用される。また、保存はまだしないが適用する場合はApplyでも適用される。
なお、実際に有効にする場合はメイン画面の下部にある”Turn On”をクリックで有効になる。無効にする場合はその部分が”Turn Off”に変わっているため、それをクリックすることで無効になる。これが基本操作である。
VID調査時:セーブせずに変化させる
CPUに関わる電圧はVIDとVCoreがある。VID(Voltage Identification Definition)は定格クロックに必要な電圧のことであり、これは同じCPUでも個体差が存在する。それに対して存在する値がVCoreで、これが実際の電圧となる。VIDについては殆どのフリーのソフトウェアで確認できるが、VCoreは一部のソフトウェアかUEFIからの確認に限定され、確認は難しいものになっている。
とはいえ、基本的にはVIDさえ意識していれば問題ない。-100mVのマージンを実施して問題がなければ、もう少し下げるところまで行くであろう。下げるルールとしては、-10mV刻みが安全である。変化させる場合はセーブ機能をOFFにしたうえで、Applyで適用する方法が安全である。
私のi7-9700の場合、-120mVまで動作したがベンチマーク終了後にフリーズしたため、安全圏は-110mVであることが判明した。
FFXVベンチマークによる比較
CPUの比較においても、FFXVベンチマークは有効である。本来はGPUのベンチマークに使うものであるが、GPUの性能が十分な場合はCPUの負荷検証にも使用することができる。検証にあたって電圧無調整のターボブーストの場合と、-100mVの場合の結果を比較する。なお、-120mVはベンチマーク終了直後にフリーズしたためベンチマーク時のログがファイルのファイナライズが行えずに消失してしまった。ベンチマークスコアのみ残っており、これは12475であった。
以下は、CPU100%(ターボブースト有効)の場合で電圧無調整と-100mVのときについて、その差について表にまとめた。
電圧設定 | CPU最大温度[℃] | GPU最大温度[℃] | CPU最大消費電力[W]※1 | GPU最大消費電力[W] | GPU負荷率[%] | スコア |
無調整 | 100 | 73.9 | 64.997 | 263.4 | 100 | 13025 |
-100mV調整 | 97 | 75.3 | 64.999 | 265 | 99 | 12570 |
※1 65W以上の記録があるが、計測ルールから瞬時値かつ実用的でない値を計測したとみなし、除外している
上記の結果が得られた。なお、一部データの逆転現象については、測定時間が昼時間であったことも考慮されたい。そのため通常より放熱効果が薄い気温であったことも影響しているものと考えられる。次にこのデータからCPU最大温度と消費電力推移について、無調整と-100mVの結果毎にグラフ化する。
結果考察
実験により、上記の結果が得られた。ターボブーストはフルパワーで稼働させる関係で、消費電力に関しては流石に低くすることは難しいが、温度に関しては-100mVを実施したことで全体で-3℃の最大温度低下を記録することができた。これにより電圧を下げることによる効果があることが証明された。個体差的に-120mV以下にすることは不可能であることは既に確認済みであるため大きな効果を期待出来ないが、ターボブースト時はともかく定格運用をしている場合は無調整の場合と比較して消費電力と温度を低くでき、継続使用により蓄積していけばその効果は大きいものになるはずである。
しかし個人的に悩んでいるところが、ターボブースト時にあまり効果を得られなかったことである。これはCPUの動作原理からも当然というべきものである。これを解決したい場合はクロックを操作するというところになるが、これはターボブーストをONにしつつ検証しなければならないので消費電力とCPU温度で不安が生じる。調整時はおそらくAfterburnerのようにクロックと電圧の関係を随時検証しながら変動させていかなければならないが、少しでも設定を誤るとフリーズするため難易度が高い。よって定格運用かつクロックを変動させない形での電圧低下が最も安全である程度の効果があるものと結論付けることにする。
電圧操作は定格運用向き、本格運用はクロックも合わせて変動させるべき
以上でThrottleStopによるCPU電圧変更実験とその結果に関する考察を終了する。CPU電圧の変更はAfturburnerでGPUクロックと電圧を変更したときに、CPUでもそれと同じことができるはずだということで調査を行った。しかし基本的にはUEFIから操作するものであったようで、しかしUEFIである以上は一度設定に失敗するとCMOSクリアによる回避処置が必要であるので、手間がかかる上に即時反映しても確認のしようがなく、難しいものに感じていた。
だがAfturburnerがOS上で動作するソフトウェアとして外部から「電圧」「クロック」というハードウェアの部分を操作できたように、CPUでも同じことができるソフトウェアがあるはずということで発見したのがThrottleStopであったということ。だが今のところ変更できるのは電圧のみでクロックに関しては干渉できる項目がないようである。もしかしたら私が気付いていないだけかもしれないが、しかしそこまでするのは高難易度であるため、この検証は余裕があるときに行う。
やらないよりはやった方がいいとはこのことであるが、それが手間のかかるものであれば誰もやらないのが世の常である。だが少なくとも、ThrottleStopによる操作は手間がかかるものではない。ただし電圧変更に関してはメーカー補償外行為につき、それが心配な人には一切おすすめができないものである。もっとも、BTOでもない中古品流用タイプの自作勢なら一切関係がないので躊躇なく行えるであろう。今ではCPU自体が世代が進んだことで定格性能が向上しているので、定格運用で消費電力と熱が気になる場合は、このソフトは十分に使えるはずである。
以上、CPU低電圧化実験:UEFIより安全に行う方法、であった。もう少しカスタムしたいので、引き続きCPU電圧・クロック変更の情報は集めていく。
KIBEKIN at 00:00 Sept. 1st, 2023
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