この記事の概要を簡単まとめ!
- 久しぶりに発生したTwitterの改悪で再注目された分散型SNS
- これまで移動を渋っていたユーザーの多くが流入する事態にまで発展
- 分散型SNSと言いながら特定鯖に集約しているのは「良くない」
- 大型鯖に集約することは失敗構造である、その対策を考える
- 負荷分散と自鯖設立を前提に私見を語ることにした
- J鯖やioに繋がっている鯖はいくらでも存在し、動作が堅実な鯖も多い
- 自鯖建て、ホスティングサービスとVPSで自作の2種類ある
- 情報が出揃っている今、ドメインさえあれば誰でも建てられる
- 唯一の問題「運用資金」は投げ銭を応用する
- 「分散」の実現は案外単純なことを皆がやるだけである
SNSとはユーザーにとってはコミュニケーションツールとして必須だが、運営側にとっては金喰い虫で、採算が合わないならとっとと手放したい存在であると気付く。あらゆる大手SNSで至る所に広告まみれなところを見ればそれは明らかで、基本無料・特定機能は有料だとしても多くの人はその機能を求めないので金を払うことは少ない。なので無料のまま使われては収益性がないのは当然のことで、それゆえ広告まみれになるわけだ。
大手SNSの対照的存在として度々注目されては下火になるものが分散型SNSである。こちらは主にMastodon・Misskey・Pleromaの3つのプラットフォームがメジャーであり、オープンソースである。この関係でサーバーは1ヶ所だけではなく、各地に規模の大小を問わず点在している。通常は他のサーバーとは通信できないが、挙げた3つのプラットフォームはActivityPubを採用しているため、同じプラットフォームはもちろん異なるプラットフォーム同士でも相互に通信可能である。
基本的にはいつも下火で注目されない分散型SNSも、2月9日に行われたTwitter APIの大改悪を受けてマスドやMisskeyに逃げる新規が増え、それがいつもより激しかった。1ヶ月が経とうとしている今もその勢いはとどまらず、著名人ですら利用するまでに至っている。しかもそれに合わせて過去に書いたMisskey記事が見られまくるなどの副作用が発生していた。そこで、古い情報となる分散型SNS記事更新を兼ねて、第2私見として、主に負荷分散と自鯖設立について考えることとする。
ひとっ飛びできる目次
集まったら分散の意味がないだろ?
Twitterと分散型SNS
中央集権型と非中央集権型SNS
Twitter, Facebook, Instagramはいずれも安全性と話題性で最も人気を誇っているSNSである。逆に中国からは危険性を考慮し公的機関においては利用を禁止されることが多いTikTok, 中国限定TwitterのWeiboがある。これらも一応SNSと扱う。海外ではRedditなどのSNSもある。なので単純にSNSと言っても大小様々で知名度も幅があり、ユーザー層も全く異なるものになっている。その中には、話題になったので調査のために登録したが、内実はあまり良くないので結局使わなくなったSNSもある。GabやParlerはそれであり、これらは過去に何度も問題が起きたことのあるSNSである。
正直私としてもそれらは考えたくないものなのでカットするとして、真面目な「分散型SNS」について考える。分散型SNSとは一般認知度的にMastodon(マスド)・Misskey・Pleromaを中心とするSNS及びブログ・マイクロブログが、それぞれのプラットフォームの相違性を維持しつつ、それぞれは相互通信によってやり取りができるようになっているサーバー群のことである、という説明になる。堅い言葉で言えば、非中央集権型ソーシャルネットワークである。これはTwitterやFacebookが原則として単一のサーバーのみを持ち、そこに全てのユーザーが一堂に会する「中央集権型」と比較しての名称である。
今でもSNSの頂点に君臨するのはTwitterで間違いないはずだ。しかし、2019年頃から動きが怪しくなり、一部ユーザーが制限ないし凍結被害を受けたことによって、当時はTwitterの比較対象とされていたマスド、特にmstdn.jp(J鯖)への流入が確認された。だが当時はマスドの方がオワコンだと言われていたほどであり、登録したとしてもすぐに里帰りするような形で、それが6ヶ月に1回程度起きるのが定番になっていた。ちなみに私はTwitterにおいて大量凍結等によって流入してきた新規を見て、その様子からホロコーストをもじって鳥コーストと呼んでいた。
しばらくは何も起きずに平穏だった両者も、2020年に入ってからの死のコロナウイルス情勢になってから転換期が訪れる。2020年3月から、Twitterではコロナ関連ワードで無差別凍結を行うようになり、実際にその被害を受けた人や「中国忖度」が疑われることに反発したユーザーがTwitterを離れ、マスドに大量流入が発生した時期がある。これが全体では第三次鳥コースト、別名「武漢・コロナコースト」である。そこからマスドをはじめとする分散型SNSが徐々に注目され始めるようになってきた。
2023年2月9日、過去最大の鳥コーストが発生
その頃からSNSの常識が変わり始めたわけだが、それでもなおTwitterは絶対的覇権を持っていた。そのため鳥コーストこそ起きはするが殆どのユーザーは里帰りし、或いは併用するがメインはTwitterという人が多かった。ただ、それでも間違いなく鳥コーストは度々発生しており、運営主体の無能行動が起因ならともかく、悪意を持ったTwitterユーザーが特定層のユーザーを凍結に追い込むように「攻撃」した結果発生した鳥コーストも確認している。記録では2020年5月5日の第5次鳥コースト(肌色系絵師迫害事件)、2020年12月11日の第6次鳥コースト(PW鯖所属絵師無差別凍結事件)、2021年2月17日の第7次鳥コースト(肌色系コスプレイヤー無差別凍結事件)が該当する。この頃から徐々にTwitterに対する不信は強くなっていったものと考えられる。
最大の決め手となった事件は、2023年2月9日に起きた。Twitterが提供しているAPIについて、これを無料で提供することを終了すると発表し、その日が2月9日に実行されることが分かった。とはいえこれはあくまでもサードパーティ製アプリに組み込む場合のAPIであって、ゴミ屑レベルで使えない公式クライアントとブラウザ版には一切関係ないものである。そのため騒ぐのは時期早々ではあるのだが、これによって「普通に使うことすら制限がかかる」と勘違いした人、サードパーティ製アプリを制作していた人やそのユーザーの多くが一気にTwitterを離反し、マスドとMisskeyに流れ込んだ。サードパーティを自ら締め出す行為への反発が主であろう、その理由は分かるものである。
つまり、その日が鳥コースト発生日である。単純な鳥コーストであればこれまでと殆ど変わりがないが、過去最大と称したのは、これまでTwitterがメインだったユーザーすら、併用することが多くなったからである。既にマスドやMisskeyを利用していて、そこから交流がある人を除いた中で知っている人は、昔にPW鯖に作ったことがあるという卯塚ウウは早速垢分散(VT鯖/Art/io)している。ほかではNeosVR勢の一部や\おらんげさん/を確認できた。これらはいずれもTwitterは現存しており寧ろまだメインであるが、かといって作っただけというわけでもない。頻度こそ低めだがちゃんと活動していることを確認している。
TwitterのAPI改悪から約1ヶ月が経とうとしている。現在は落ち着いているのか、あまり激しい動きは見られない。しかしこれまでの鳥コースト以上にマスド・Misskey(Pleromaはまれ)の任意の鯖に垢を作成した人は多いようで、万が一にでもTwitterが爆散したときには、何の滞りもなく分散型SNSで活動することになるであろう。
「特定鯖に集約する現象」を観測、それへの対策を考える
分散型SNSの特徴が非中央集権型であり、ActivityPubが実装されていればプラットフォームが異なる場合でも相互通信が可能であり、それぞれの独立したサーバーの集合体であることだ。ただしActivityPubには任意のサーバーとの通信を拒否する機能も備わっており、そのサーバーが何らかの事情によって受け入れることができないものであるとするなら、サーバーの管理者によって配送の停止やブロックを行うことができる。それは互いにそうであるが、通常この方法は一方的遮断となり、実害が発生する場合以外では使用することは倫理的観点から避けられる。とはいえ、常識の範囲内での運用であれば通常はこれは行われることはない。
ただ、分散型SNSはその特性上、サーバーの規模の違いがある。それは「サーバーの強さ」に直結するものである。マスドではJ鯖・PW鯖が強く、Misskeyではioが強く、同時にそれらは日本人にとっての「顔」である。Pleromaはあまり聞かないのでわからない。マスドを挙げるとき、大抵はJ鯖・PW鯖を基準に話をすることが多く、Misskeyではioを基準に話をすることもまたよく見た光景だ。それゆえ、新規がマスドやMisskeyを始める場合、それらの情報が検索上位に上がりやすいため、最もわかりやすいということでJ鯖・PW鯖およびioを最初に選択する人が多いのである。それは当然の流れであり、新規参入のルートとしては全く間違っていない。
ただここ最近はどうしても疑問視せざるを得ないことがある。分散型SNSと言いながら特定のサーバーにばかり人が集まっている傾向が目立ち、この状況は私からすれば「失敗構造」のように思えてならない。分散型SNSが非中央集権型を主張するのに、J鯖やioにばかり集まるのなら、その対極に位置するTwitterと全く変わらない構造になってしまうからである。また、人が集まればそれだけ要求されるサーバースペックが高くなり、運用難易度を向上させることになる。これの危惧すべき副作用は、負荷上昇による動作遅延、運用費高騰によるサーバー維持の難しさ、危険人物が荒らすことによる対応と事後処理など、様々なことが考えられる。規模が大きければそれだけ問題も膨れ上がりやすく、かといって運営者は団体ではなく、個人か同じ目的を持った少数のボランティアであることが多い。分散型SNSは往々にして「利益を生まない構造」でありながら手のかかるものであり、この特性から企業が手を出すことは非常に稀である。そのために個人の運営者が多いのである。それは過去のJ鯖の歩みからも分かる。
ではどうするかといえば、答えは簡単である。負荷分散をすればいい。この場合の負荷分散は2通りである。J鯖やioといった有名鯖とは少し離れた、しかしそれなりに規模を持つ鯖への移動と、最小構成による自分専用の鯖を建てることである。マスドもMisskeyも(Pleromaも)、現在は情報が十分出揃っているので、どこに何があるかということ、鯖建てについて必要な情報とサービスが提供され、あるいは先駆者が実際に構築した情報を残していることも多くなっている。そこで今回は、前回とは事情が異なることを考慮した分散型SNS第2私見を語っていくこととする。
分散型SNS第2私見
私見を語るにあたって、考えるプラットフォームはマスド、Misskey、Pleromaとし、それ以外のプラットフォームについてはここでは除外するものとする。
私見01:J鯖やioから離れるための鯖を考える
多くにとってJ鯖やmisskey.ioは、それぞれマスドとMisskeyの顔であるという認識で間違いない。これは先にも述べた通りである。しかし、なかなかどうして、日本人とは重い腰を上げるのが不得意であり、名前の知れたところや日本人が大量にいるところでないと使わないことが多い。私のように中国製品ギャンブルが好きで色々と試していたり、うーちゃんのように新しいものに率先してトライする人ばかりではないので、無名な鯖やメイン言語が自国の言語でない場所は、普通の人はまず選択肢にしないのである。
とはいえ、いずれは選ばなければならないわけで、いつまでも足踏みしている場合ではない。そこで候補を挙げることにする。条件としては、J鯖やioと連合していて、中規模程度であり、動作が安定している鯖である。それに該当するものをあげるとすれば次になる。
- ベスフレ(Admin):旧ニコフレの実質的後継鯖である。特にこれといった制限のない汎用系の鯖である。運営者(スタッフ)はまさらっき氏及びハト氏である。かつては招待制であったが、現在は自由に登録できる。規模も日本系鯖ではかなり大きい方である。
- Fedibird(のえる):のえる氏の管理する分散型SNSプラットフォームの1つ。デフォルトでLTLが無効、UTL(連合)が有効の、Twitterのような感じの鯖である。最新機能や独自機能の実験場としても使用される。他にものえすきー、のえろまをはじめとした多くの分散型SNSの鯖を持ち、分散型SNSにおける専門家の1人である。動作は非常に安定している。
- ゴロツキ(押尾さん・のえる):初期は押尾さんが個人で管理し、後にのえる氏を管理人に迎えて管理している小規模鯖。完全招待制で、押尾さんの気まぐれによって招待リンクが発行される。常識さえ守っていれば特にうるさく言われないくらいに緩い。時々名前を挙げる蟹パン先生のもう1つの生息地でもある。
misskey.cf(Admin):Misskey鯖の中では規模が大きめでアクティブユーザーも多めな鯖。汎用系で、設備が十分に整っており、アクティブユーザーも多いため、安定して使用できる。かなり管理がしっかりしているようで、不正アクセスへの厳重な対処や過剰な負荷に対する制限などを行う、新規にも安心の構造になっている。※2023年7月2日時点で未だ復旧していない。- えとねるん3号館(こんこんたんぬもろて):たんぬ氏が管理する、Misskey鯖の中では規模が大きめでアクティブユーザーも多めな鯖。比較的ユーザーが多いものの、動作は安定しているようである。たんぬ氏は別鯖の管理人やモデレーター、あるいはいちユーザーとして多くの鯖に分散している。頻繁に鯖名が変わることでもおなじみである。きぇぇぇぇぇぇぇ!
- にりらみすきー部(にりら):VRChatユーザー向けMisskey鯖。VRChatユーザーが中心のため、大抵の垢名がVRChatの名前と一致する構造になっている。ターゲットがVRChatユーザーであるので、VRChatの画像が多く流れてくる鯖であり、活動も割と活発である。もちろんVRChat以外の話題も盛んである。
- なお、MisskeyについてはMisskey Hubのサーバー一覧およびJoinMisskeyのサーバー一覧のページにおいて、JoinMisskeyで観測できた鯖が一覧で表示され、探しやすくなっている。もちろんここに載っていない鯖もある。

マスドに関しては過去に「日本のマストドンインスタンスの一覧」、マスド全体の用語解説等は「マストドン日本語ウィキ」というサイトに鯖情報がまとめられていたのだが、現在は両方ともサービスを終了しており、確認できなくなってしまっている。そのため現時点ではマスドに関しては知る方法は少なくなってしまっている。対してMisskeyに関しては継続して更新が行われているので、頻繁に最新情報を得ることができる。大方のサーバー情報はここから入手でき、選択肢が大きく広がるものになっている。よって迷ったらまずそこを見ろ、とアドバイスできる。
サーバー選択の基準
では、サーバー一覧によって各個を比較した上で、果たして自分はどこを選択(登録)すべきなのかということを迷うことになるはずだ。結論から言えば、個人の感情や倫理観、価値観などをまるまるひっくるめて「直観に従え」となってしまう。結局最後に登録するのを決めるのは自分自身だからである。とはいえそれでは無責任なので、私の経験からの選択方法を考える。
2年以上も前の私は、単なる一般人であった。過去記事の情報から憶えている限りでは、2020年3月時点で既にマスドには居る。最初は何もわからずJ鯖であったが、慣れてきて、少々居心地の悪さを感じていた私はのえる氏のFedibirdに移動した。しばらくは私はそこにいたのだが、活動と調査の過程で発見したMisskeyを始め、3部作に分けて解説した。これは2020年12月から2021年1月にかけてのことである。その際はMisskeyをメインにしていた。この間にPleromaについても調査を行った。なお、一時期話題となったGabやParlerはMisskeyを調査している頃に話題になっていたもので、しかし中身はそんなにいいものではなかった。そしてそれはそもそも分散型SNSとは違うものであった。
一通りやってみて、正直な感想としてPleromaは「管理者にとって便利な鯖」であり、あえて選ぶ必要は少ない。なのでマスドとMisskeyに自ずと絞られることになる。その上で選択するなら、まずは汎用鯖を登録するといいだろう。上記の場合はベスフレやmisskey.cfが該当する。これらはそれぞれマスドとMisskeyに特別手を加えることなく運用されているもので、安定性も高いものになっている。よって、J鯖やioの代替ではないが新規が雰囲気を掴むには十分な鯖として選択できる。加えて、特別な事情がなければJ鯖やioと連合しているので、その点でも問題はないはずだ。その次に、安定性は少し低くなるが、それなりに活気のある中規模程度の汎用鯖などを検討するといいだろう。
特定の名前を持つ鯖について
ところで、先に挙げたにりらみすきー部のように、「特定の名前を持つ鯖」が多数存在することに気付くはずである。これの特定の名前とは、ゲーム・アニメ・趣味・活動といったもののことである。私の場合は過去に登録した鯖として花騎士鯖(あふん鯖)があり、これについては2020年6月25日にレポートを書いている。原作は元はエロゲのフラワーナイトガール -FLOWER NIGHT GIRL-で、これを中心にDMM提供のゲームの話題がメインとなる鯖になっている。もちろんそれ以外の話題も多く飛び交うが、いずれの場合もここは猛者が多いのも特徴である。現在はあまり来れていないが、たまに顔を出してはいる。
というように、特定のものに特化している鯖は、とりあえず「その名前」で入力すれば1個か2個はあるくらいには存在している。ただし、鯖名が略称であったり言い回しが異なるもので登録されていることも少なくないので、その場合は根気よく探すことになる。鯖の内実としては、基本は鯖名通りの話題を中心に、そこにいるユーザーがノージャンルに思い思いに投稿しているので、特化鯖であり汎用鯖であるということになる。ただ、その名前がついていることで、それが好きな人が集まりやすい。これのおかげで、話題が途切れる心配はないはずだ。
私見02:より簡単になった鯖建て
従来の感覚では、サーバーを建てることは難しいものであるとされてきた。それはハードウェアリソースは当然のこと、サーバーとして機能するOS設定とその知識、ネットワークの知識、セキュリティ設定、運用コストなどを全て考慮した上で構築する必要があり、個人で運用するには時間もコストもかかるためである。そのため通常は企業レベルで運用されるものが多い。また、サーバーの運用は中小企業ではレンタルサーバーやVPSを利用することが多く、大企業では自社設備の一部としてオンプレミス運用が多い。大体はこのような流れになっており、個人レベルの運用でも前者のパターンが多いはずだ。個人でオンプレミス運用する場合、それはローカルのバックアップサーバーのような使い方になるはずだ。
当然マスドもMisskeyもPleromaも、それぞれは複数のプログラミング言語の組み合わせによって実現するサーバーアプリケーションである。そのため実行には前述の知識と条件に加えて、実行したいアプリの言語も勉強しなければならない。これは仕事や趣味で何らかの言語を触っている人であればまだ何とかなるが、事前知識が全くない人がやるには苦行以上の問題になる。プログラミングの知識やネットワークの知識がないと、そもそもマスドやMisskeyの「管理者視点としての情報」を集めるのは苦労することになるはずだ。
その問題は、技術とホスティングサービスが解決した。コンテナ仮想化を用いてアプリケーションを開発・配置・実行できるオープンプラットフォーム”Docker“および複数のDockerイメージをまとめて管理できる”Docker Compose“では、主要3プラットフォームについてDokcerイメージが提供されており、DockerやDokcer Composeの勉強を少し行い、先駆者の情報に従って行えば簡単に建てることができるようになっている。これはローカルで実験する場合はもちろん、VPSを利用して実用的なものを建てる場合でも使えるものになる。ただしDockerはLinux系の技術であり、Windowsでも出来ないわけではないが実行する場合はLinux系OSを使えるようにしておく必要がある。
人によってはそれもしたくないと思うことはあるはずで、その場合はもっと楽な方法がホスティングサービスである。過去にはそれほどホスティングサービスは存在しなかったが、現在は世界レベルでマスド、Misskeyのホスティングサービスが展開されている。こちらは専門知識が全くなくても、それを管理している人が殆どの設定を代行してくれるほか、バージョンの管理も代行してくれる。ホスティングサービスなので安定性は高く、料金プランも複数選択肢が存在するものが多くなっているので、自分の用途に合わせてプランを選択できるというのがポイントになってくる。時間と技術がない人でも簡単に管理者になれるのである。

最低限必要なものはドメインだけ
実用的な鯖建てを行う場合に1つだけ絶対に必要なものがあり、それはドメインである。多くのサーバー事業者などで説明されている言葉では「インターネット上の住所」としているが、IT用語としての正確な定義は「インターネット上の特定の領域や特定のマシンを一意に識別するために階層的に管理された名前」となる1)参照:ドメインとは 「ドメイン名」 (domain): – IT用語辞典バイナリ。通常、インターネット通信で任意のアプリケーションが特定の相手と通信を行う場合は、その相手のIPアドレスを取得する必要がある。しかしそのIPアドレスは、人間にとってはいちいちどれがどれであるかを憶えられるものではなく、IPアドレスが完全に固定になっていることも少ない。そのため、人間にとって憶えやすいものであるドメインを用いて、各アプリケーションはDNS(=Domain Name Server)と通信を行って対象のドメインのIPアドレスを取得することで通信が可能になっている。この方法であれば、相手のIPアドレスが変更になっても通信が可能である。
ローカルでPC上で検証する場合に関してはドメインは必要ないが、実際に公開して運用する場合にはドメインが必要になる。そのため、あらかじめ任意の事業者でドメインを取得しておく必要がある。ただし、取得先は何があってもお名前.comだけは避けること。それ以外ならどこでも問題ない。取得したドメインについては、取得先でDNS設定を行うことなどをすることによって設定できるはずである。というのも、私が経験したのはレンタルサーバーの場合であり、これらとは勝手が異なるためである。設定方法についてはインターネット上に多数の先駆者の情報が存在するはずなので、それを参考にすれば問題ないはずだ。
自鯖のメリットはどこにあるか
ところで、探せばいくらでもあるはずの鯖をあえてスルーして自鯖を建てるのか、それを疑問に思った人も少なくないだろう。自鯖のメリットとしては、次が考えられる。
- 自由に運営できる:自分で建てることにより、管理者となることができる。そのため、自分のルールを設定し、システムを自由に弄ることができる。
- 別荘地と実験:管理者である自分だけが利用する、所謂「おひとりさま」運用に向いている。連合でのみの運用を前提とする場合には有効である。また、1人だけであるので機能の実験にも使用しやすい。万が一何か障害が発生しても殆ど迷惑がかからない。
- 負荷分散:全体として見た場合、ユーザーが分散することによって1つのサーバーにかかる負荷が減少することになり、実質的に負荷分散となる。ただし、連合にかかる負荷などは相対的に上昇することになる。しかしそれは微々たるものであることが多い。
- 予備鯖:どんなサーバーであっても定期的なメンテナンスは必須事項であり、実施する場合は一時的にサービスを停止しなければならない。停止中は利用できなくなるため、その際は登録済みの別鯖で活動することになる。あるいは何かのエラーによって使用不可になったとき、その避難先の1つとして自分のサーバーに避難するという使い方もできる。もっとも、管理者である以上他の場所で活動することは少なくなるとは思われるが。
- ユーザーの誘致:複数人の同時使用を前提としたスペックである場合、自鯖に新規・既存を問わずユーザーを呼び込んでローカルを賑わすことができる。誘致された側としてはメイン・サブのどちらでも運用できる。避暑地的存在にもなるはずだ。
主に上記であり、ほかにも自鯖を建てるメリットは存在するであろう。今回はテーマを「負荷分散」としているので、ここでの目的は負荷分散が主である。J鯖やio以外の鯖であっても、結局のところそれにも人が増えていけば最終的にはJ鯖やioと同じ状態に陥る可能性は0ではない。それを避ける簡単な方法はサーバーを増やし、ユーザーを分散させることである。単純な考え方ではあるが、受け皿が増えればそれだけ個々のサーバーにかかる負荷を軽減できるはずなので、意味のあることになるはずだ。もっとも、1人が複数の鯖に分散してしまうと変わらないかもしれないが。
唯一の問題「運用資金」は投げ銭を応用する
ただ、分散型SNSは原則として収益性が皆無である。それは広告を挿入するシステムが十分に備わっていないためである。これは分散型SNS全体で、広告を利用することについてはあまり考えられてこなかったこともある。したがって、分散型SNSはサーバーを建てる前から準備で金がかかり、サーバーを実際に建てると金がかかり、サーバーを維持するのにも金がかかる。そうでありながら、分散型SNSを経営することによる収益は全くない。つまり、金喰い虫である。下手をすればいたずらに金を失うだけなので、皆があまりやりたがらない理由の1つにもなる。
ではこれを解決する方法はあるのかといえば、簡単である。投げ銭システムを応用すればいい。この投げ銭については、金額はワンコインから特典付きのものまで、何でもいい。100円程度でも10人あれば1000円であるわけで、500円になれば5000円であり、十分な運用費になるはずだ。Misskeyにおいてはカスタム絵文字の概念があるので、大きめの投げ銭をした人に対してはカスタム絵文字の導入権を付与したり、専用のカスタム絵文字を作るというのも1つの案となる。よく言われることである「リターン」については、別に高額になれば豪華なものを用意する必要があるとかはあまり考えなくてもいい。
現在主流の投げ銭システムは、クリエイター系でお馴染みのPatreonやKyashを使用することがあるようだ。それ以外の投げ銭システムも存在するが、多くの場合手数料を取られることが多い。そのため自分にとって何が最適かというのを、利用できるシステムを並べて比較して選択するといいだろう。あるいは、現代的に仮想通貨で受け付けるというのもありだが、その場合はレートに依存し、しかも殆どでまだ仮想通貨支払いに対応していない場合が多いので、現実的とは言えない。したがって今は既存のシステムを利用した方が安全ではある。
「分散」の実現は案外単純なことを皆がやるだけである
以上で、分散型SNS第2私見を完了する。私自身は活動の関係でマスドとMisskeyはあくまでもサブとしての利用であり、メインはTwitterに移行していた。そのため、ここ最近は分散型SNSについてはブログ更新情報の伝達の利用しかなかった。しかし、2月9日の過去最大の鳥コーストを受けてうーちゃんが分散するようになり、NeosVR勢がNeos.loveを建てて活動するようになったことを確認したので、急遽J鯖を一般利用に格上げして運用することになった。もっとも、Neos方面は昔の名前(無音烏/Silent Raven ※現在は廃棄済み)で通っていたはずなのに何故分かったのかは不思議でしかないが。
その副作用は私の方にもあった。2年以上も前に書いたMisskey3部作が急にPV数が上がった。既に古い情報であるにもかかわらず見られていることから、分散型SNSを中心に、特にMisskeyの情報を探し求める人が増えていることの証明である。しかしマスドについてはあまり見られていないようである。それはともかく、分散型SNS全体でユーザーが増えたことは間違いない。これによって起きる有名鯖への負荷上昇を観測し、特にmisskey.ioは同時新規流入数が非常に多かったようで、性能不足に陥ったためスペックを上げることになり、これによって一気に運用費が高くなった。幸い、投げ銭によって運用資金は集まったため問題はなかったが。
分散型SNSといいつつ特定の鯖にばかりユーザーが集まっているのは、正直失敗構造のようにも感じている。とはいえ知名度から考えればJ鯖やioにばかり人が集まるのは分からないでもない。理論上は無限にサーバー強化を行えば無限にユーザーを受け入れられるわけだが、実際はリソースも資金も時間も有限であり、保守の難易度も高くなってしまう。そこでせっかく分散型SNSというのだからユーザーを分散させた方が色々利点がある、ということから、負荷分散と自鯖設立を中心とする分散型SNSについての第2私見を語った。そして分散の実現は、案外単純なことである。それを皆がやるだけである。実際にやるかどうかは個人に依存するが、このことを覚えておくと分散型SNSで過ごすには困らないはずだ。
以上、分散型SNS第2私見:負荷分散と自鯖設立、であった。次はどの鯖に登録しようかな?
KIBEKIN at 20:32 Mar. 12th, 2022
分散型SNS情報に恩を感じたら、私に寄付してどうぞ。
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