この記事の概要を簡単まとめ!
- HP 8570wの紹介記事:第二弾
- 裏蓋の中に存在するmSATA SSDスロット
- 単純な追加ストレージとしては性能不足
- IRSTの機能の1つISRTのためのmSATA, 設定方法を解説
- 容量確保しながらHDDより高速のディスクI/Oを実現
- SSDをケチりたい人の救世主
HP製モバイルワークステーション、HP Elitebook 8570w Mobile Workstation(以下8570w)の実力を紹介する記事の第二弾である。今回は、mSATAとRAID0を利用した、Intel Rapid Storage Technology(IRST)の中にあるIntel Smart Response Technology(ISRT)を使用する方法と解説、私の環境での実測データを紹介する。
一般のラップトップでは、SATAないしmSATA、M.2のスロットは1つしかない。しかしワークステーションのグレードである8570wにおいては、通常のSATA3(6Gbps)に加え、mSATAドライブ(3Gbps)が本体裏蓋内に存在する。3Gbpsなので、速度は少し劣るものの、後述のIRSTの機能の1つであるISRTを利用することで、SATA3に接続しているディスク(特にHDDの場合)のR/W性能を向上させることができるようになる。
なお、前回の紹介記事は下記のリンクから読める。
ひとっ飛びできる目次
もう1つのSATAドライブ”mSATA SSD”
裏蓋の中に存在する小さなドライブ
前回記事を見た人、或いは8570wの画像を見た人は分かるが、mSATAは裏蓋(サービスドア)の中にあるドライブスロットである。これ以外に、WWAN, RAMが2スロット分存在する。RAMのアップグレードがネジを使わずに行えるのは優秀なラップトップである。
そもそもmSATA SSDとは何なのか
元々mSATAはIRST1)Intel Rapid Storage Technology. インテルが開発した、Windows向けのSATA接続されたディスクのシステムのパフォーマンスと信頼性を向上させるシステム。RAID稼動しているマシンをサポートする機能が多数含まれており、ISRTもその中に含まれている。参照: インテル® ラピッド・ストレージ・テクノロジーの機能の1つであるISRT2)Intel Smart Response Technology. IRSTの機能の1つ。低価格・小容量のSSDと低価格・大容量のHDDの組み合わせ、またはSSHDのディスクI/Oを向上させるシステム。基本動作はSSDの一部または全てをキャッシュ領域にする。頻繁にアクセスされるデータをキャッシュすることで、高速化を図っている。SSDは最小16GBあれば利用可能である。参照: インテル® スマート・レスポンス・テクノロジーのために設計された、小容量でストレージには向かないSSDであった。そのため、安いmSATA SSDに16GB、32GB、64GBが多いのはそのためである。なお、ISRTは後述するが最大64GBを利用できる。
しかしその後、UltrabookやIntel NUCの登場によって、mSATAの容量は128GB以上を超えるようになる。もっともUltrabookではSSDの換装は少ないので、NUC用のSSDとしての利用が殆どである。そのNUCも現在はM.2が主流となり、一般市場で見かけることは少なくなってきている。
一応、オワコン甚だしいヤフオクや、今やヤフオクより優秀なメルカリ等のC2C界隈では良く見かけるのだが、これもタチの悪い「業者」が市場を牛耳っている実態となっている。需要がまだあるためか、全体的にぼったくり価格になっていて、全くフェアとは言えない。また、「換装用」パーツを売って騙そうとしている業者も多数存在しているため、初心者はプロの個人に依頼して代理購入を頼んだほうがいい。はっきり言ってリスクが高すぎる。
8570wでのmSATA
8570wに搭載されているmSATAドライブの接続規格はSATA2(3Gbps)である。そのため、SATA3規格のmSATA SSDを使用しても、3Gbpsで頭打ちとなってしまう。とは言っても、現在のmSATAはSATA3を前提に設計されているため、SATA2のmSATAを探すほうが難しい。
ただ、それでも1つのドライブであるので、mSATAをシステムドライブとして設定を変更することは可能である。mSATAをC:, SATA3をD:以降のドライブとして扱うことで、デスクトップPCのシステムにSSD、ストレージにHDDを振り分ける、使い分け運用がラップトップでも可能になる。
このmSATAも、SATA3に512GB以上のSSDを採用してしまうと、速度的に意味がなくなってしまう。そのため、あくまでHDDをメインに使う人向けの構成というべきであろう。単純な追加ストレージとして使うには力不足である。
Intel Smart Response Technology(ISRT)
IRSTの機能の1つであるISRTの設定
前述や脚注に軽く解説を記述したが、mSATAはIRSTの機能の1つであるISRTのために設計された小容量SSDである。それでは実際にISRTを設定して有効にするための手順を記述する。
AHCIからRAIDへの変更
まずはじめに、多くの人はWindowsをAHCIでインストールしているはずである。これをRAIDに変更しなければ、ISRTを使用できない。変更そのものはBIOSから行えるものの、RAIDで起動するにはRAIDドライバーを有効にする必要がある。これにはレジストリの変更を行う。ただし、変更箇所は固定のため、以下の通りに行えば問題ない。
- 窓+Rで regedit を実行する。
- “COMPUTER\HKEY_LOCAL_MACHINE\SYSTEM\CurrentControlSet\services\iaStorV”を開く。
- [REG_DWORD]Startの値を0x0(0)に書き換える。
- regeditを終了し、再起動する。この際の再起動でBIOSに入らず、通常の再起動を行うこと。
- 再起動を行い、BIOSへ入る。
- System Configuration/SATA Device ModeをRAIDに変更する。変更を保存して再起動する。

以上の手順に従って進めていくと、次の再起動時にRAIDドライバーのインストールが開始される。これには数分かかるので、少し待つ。インストールが完了すると、再起動を促されるので再起動を行う。そしてホーム画面まで戻ってこれれば、RAIDへの変更は完了である。
なお、この手順通りに行ってもうまくいかない場合がある。その場合、Windowsの起動が不可能となるものの、もう一度BIOSに入り、SATA Device ModeをAHCIに戻すことで回復できる。一旦戻してから、設定の漏れがないか確認し、再度RAIDに変更して試してみるといい。
IRSTのインストール
ここまで準備できたら、IRSTをインストールする。8570wの場合、HP公式ページからダウンロードする。intel公式のものは、ドライバが8570wと不適合なようで、ISRTの設定時に不明なエラーが発生するため使用できない。間違えてインストールしてしまっている場合は先にアンインストールを済ませておく。なお、HP公式のIRSTインストーラの配布場所は以下を参考にする。

ダウンロード後は、ダイアログに従ってインストールを進める。特に難しいことはない。インストール後は再起動が必要なため、指示に従って再起動する。
ISRTの設定を行う
再起動して戻ってきたら、IRSTを起動する。スタートメニューまたはショートカットを作成している場合はショートカットからスタートする。起動後は以下の手順に従って設定する。
- IRSTを開く前に、mSATA SSDのフォーマットを行う。ここでは初期化のみを行い、ボリュームの割り当ては行わない。
- IRSTを開く。上部メニューから高速(A)を選択する。
- “高速の有効”をクリックする。
- 設定ダイアログが表示される。高速化に使用するSSDの指定、割り当てるサイズ、高速化の対象のディスクの選択、高速モードの選択をここで指定する。
- 8570wではmSATA SSDしかなく、DVDドライブを無理やりHDDやSSDにしない限りは1つしかない。そのため変更箇所は基本的にない。
- SSDは18.6GBまたは全容量(64GBまで)のみ選択可能。特にこだわりがない限りは全容量でいい。なお、余った容量は通常のストレージとして使用できる。
- 高速モードは拡張と最速の2つある。拡張はデータ保全のため、書き込みをHDD, SSD同時に行う。よって書き込みのみ速度がHDDに引っ張られる。最速はデータ保全を考えないため、SSDに書き込んでからHDDに書き込まれる仕様となっている。
- SSDが破損したらデータが失われる可能性があるが、現在のSSDはPCの寿命より長いことが多いため、そこまで気にする必要はない。
- 設定が完了すると、高速の設定とSSDの設定が出現する。この状態になった場合、エラーは発生していない。

設定完了後は、再起動が必要になるため、一度再起動をして適用させる。再度IRSTのメニュー画面を開き、高速タブで設定が反映されていることを確認して、全て完了である。
ISRTは設定してすぐに効果が現れるものではなく、時間と共に使用頻度の高いデータ、低いデータ学習していき、最適なキャッシュを行っていく。したがって、使い続けていくうちにISRTの効果を実感できるようになる。
実験と結果
ディスクのスペックとCrystal Disk Mark
ディスク速度がどれくらい改善されたかを実際に確認する。なお、この記事を書いている間に、mSATAの差し替えを行ったため、先に各ディスクのスペックを載せておく。またISRTの再設定も行ったため、Crystal Disk Markの結果がずれているのをご了承いただきたい。
各HDD/SSDのスペック
- メイン:WDC WD7500BPVT-26HXZT3 750.1GB SATA2(3Gbps)
- mSATA:TOSHIBA THNSNB064GMCJ 64.0GB SATA2(3Gbps)

右:mSATA SSD。東芝製の特徴のないSSD。
Crystal Disk Markの結果
CDMのテスト条件:500MiBを3回
- ISRTなし(R/W):
- SeqQ32T1 81.59/71.60
- 4KiBQ8T8 0.708/0.245
- 4KiBQ32T1 0.691/0.234
- 4KiBQ1T1 0.311/0.235
- ISRT(最速)設定2日後:
- SeqQ32T1 46.48/19.24
- 4KiBQ8T8 9.065/4.232
- 4KiBQ32T1 9.131/4.872
- 4KiBQ1T1 7.524/4.368

右:ISRT(最速)で設定2日後のHDDのテスト結果。
結果考察
ISRTの存在を知っていて設定を行っていたため、HDDを単独で使用する機会は全くなかった。そのため、HDD単独でのテストはISRT解除直後のものとなっている。よって、SeqR/Wのみ記録が高い。ただし、ランダムR/Wに関してはいずれも1.0を超えていないため、HDD単独ではランダムアクセスは必然的に遅くなることが言える。
右がISRTを全容量、最速モードで設定し、2日間使用した後に同条件でテストした結果である。設定直後のためか、SeqR/Wはうまくいっていないが、その代わりランダムR/Wは軒並み数値が高くなっている。特にWriteではいずれも4.0以上を達成しているため、ここにISRTの効果が現れていることがわかる。
なお、ISRTの設定を「拡張」にすると、WriteのみHDDとSSD同時に書き込みを行う関係上、速度は据え置きになる。したがって、R/W両方の速度を向上させたい場合は、設定を「最速」にする必要がある。特に拘っていないのなら、最速一択である。
ISRTはSSDをケチりたい人の救世主
今回はHP 8570wでISRTを設定するための手順を紹介した。ISRTに関しては、インテル公式ページからインストーラをダウンロードし、基本的にここに書いたとおりに行えば、デスクトップであれば問題なく設定できるものになっている。ただし、バージョンがここに書いているものより上なので、設定出来ることはかなり多くなっている。容量も0.1GB単位で設定できるようになっているようだ。
現行のSSDも、QLCであれば1TBを1万円台で買えてしまえる時代であるものの、耐久性にはやはり不安を感じることだろう。耐久性はMLC/SLCがより高いものになる。私としては最低でもMLCが512GBで1万円台となってもらいたいところである。そうすると、気軽にSSDが使える。
しかし、それらの規格のSSDはどうしても高額であり、気軽に買えるものではない。そのため、容量が大きく安いHDDをまだ使い続ける人もいるだろう。だがHDDでは、速度が犠牲になる。欲張りな人は、それを両立できないかと考えたわけである。
そこにISRTを使用する。SSDのランダムアクセスの強さを生かし、小容量のSSDをキャッシュにして、SSDからHDDに書き込みを行うことで、HDDのアクセス速度を改善することに至った。HDDユーザにとっては、嬉しい話である。
HDDユーザの中には、SSDが高いために何とか安くしようと考えて、ISRTを使う人もいることだろう。そういう人にはまさに救世主のような存在といえる。SSDの価格が下がれば、また立ち位置は変わってくることだろう。しかし、しばらくはISRTが使われることは間違いない。ISRTを使いたい人は、少しだけ参考になるだろう。
以上、HP ElitwBook 8570w Mobile Workstationの実力 第2回: mSATAとISRT編であった。それでは、次回の記事で会おう。
リンクス岐部(LINKS-KIBE) at 21:20 Dec. 5th, 2019
追記
2020年3月22日 タイトル変更
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脚注
本文へ1 | Intel Rapid Storage Technology. インテルが開発した、Windows向けのSATA接続されたディスクのシステムのパフォーマンスと信頼性を向上させるシステム。RAID稼動しているマシンをサポートする機能が多数含まれており、ISRTもその中に含まれている。参照: インテル® ラピッド・ストレージ・テクノロジー |
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