この記事の概要を簡単まとめ!
- 中国の家電企業、Netac
- USBメモリやSSD, SDカードを一般市場向けに製造している
- 低価格で良質なSSDが市場に参入
- メインストリームの2.5インチSSD”N535S”、性能は他のものとほぼ変わらず
- N535Sは120/240/480GB以外は存在しない
- 今後の低価格SSDメーカーの有力候補
PCのストレージと言えば、10年程度前であればSSDが登場したばかりであり、HDDが未だに覇権を持っていた。それが技術の進歩に伴い、NAND構造の改良、TLC/QLCの採用による価格と耐久性のトレードオフ、価格競争によって一般消費者にも手が届き、手軽にHDDから変えられる価格になってきている。
そして近年、SSD, RAM, SDカード分野において、中国と台湾の製品が勢力を拡大している。一部はファームウェアや外観の偽装による「偽物」を創るメーカーも存在するが、それ以外の自社ホームページを持ち、実体も存在するちゃんとしたメーカー製のものもあり、乱立状態である。今回は、中国Netacが製造しているSSDのメインストリームである、N535Sのレビューを書いていく。
ひとっ飛びできる目次
中国の家電企業”Netac”
まずはじめに、N535Sを製造している企業であるNetacについて、軽く説明する。
Netacの概要
Netac Technologyは、1999年4月29日にGuoshun Frank DengとCheng Xiaohuaの2人によって設立された家電企業である。NetacはUSBフラッシュドライブを初めて発明した企業であると、根拠が不明ながら主張している。
真偽に関しては不明であり、それを検証できる資料も昔のことのため、資料そのものが存在しなかったりする。また、2002年7月24日に、電子フラッシュドライブの外部ストレージのメソッド及びデバイスに関する特許を取得している。この特許については14の企業が特許の無効化を要求しているという。この要求は中国国内なのかは不明である1)参照:Netac Technology – Wikipedia。
中国企業ということもあり、特許関係は非常にガバガバなことになっている。しかしこのあたりに関しては10年以上前の話となるため、現在それらがどうなっているかについては不明である。しかし、USBメモリ、HDD(外付け)、SSD、SDカードに関しては、確かな技術を持っている。Netac公式サイトでも製品ラインナップがしっかり掲載されており(ただしベンチマーク結果はなし)、現在のNetacはペーパーカンパニーの多い中国企業の中では真面目な印象を受ける。
家電量販店では見かけずECサイトが主流
これだけの技術とラインナップを持ちながら、日本国内にある家電量販店でNetacの製品を見かけることは殆どない。マニアックなパーツショップやTSUKUMOでは販売されているようだが、ヨドバシカメラやビックカメラを見ても一切出てこないのである。
日本では、アイティーシーが販売代理店となっている。SSDのN560Sを購入した先駆者の情報によれば、TSUKUMOで購入したものにはアイティーシーの保証が3年とあったため、おそらくはアイティーシーから仕入れているものと考えられる。
逆に、ECサイトではほぼ全般のNetac製品を扱っている。Amazonはもちろん、楽天、Yahoo!でも少数のショップが同社製品を取り扱っている。その他、海外のECサイトでも取り扱っている。世界規模で考えると、その実力は認められているものと考えていい。
日本のECサイトに目を向けると、Netacが製造している、ビジネス向け以外の殆どの製品のモデルが販売されている。ただし、保証に関しては1週間~1ヶ月程度しかない。アイティーシーが間に入っている場合は3年保証となるので、おそらくはショップがNetacから直接仕入れている可能性がある。しかし、本当に直接仕入れているかどうかを確認する術はないため、詳細は不明である。保証は皆無なのは事実だが。
保証の有無は、PC初心者においては重要な項目である。この保証がないことで、「はずれ」だったときの対応策はなくなり、どうにもならなくなる。だがNetacをはじめとする、世間一般では知られていないメーカーの製品を扱う人にとって、保証とはほぼ無縁と言える。『ダメならダメでその時はその時』という気持ちを持っているのなら、わざわざ代理店の保証など無くとも臆せず「実験」出来るであろう。
NetacのSSD
低価格で良質なSSD
Netacの強みはフラッシュドライブであり、広義のフラッシュドライブであるSSDもまた強みである。果たしてどこで技術を学んできたのかはさておき、NetacのSSDはNANDにMicron, 東芝, Hynixといった半導体の有力企業のものを、SSDコントローラはPhison製のものを使用している。これらの情報は、有志が調査した結果判明している。
中国製といえば、平気でチップメーカーのリマーク品2)Remark: 本来の意味は「意見を言う」「述べる」だが、PC関係では主にバルク品で見られ、製品の刻印を不正に変更し、実際には安価な製品を上位の製品に偽装し販売する不正行為のことをいう。これはPCパーツに限らず、SDカードでも容量偽装のリマークが横行している。これらは文字フォントが異常であったり、価格が妙に安すぎる、ネット上に情報が少なすぎるか全く無い、メーカー名で検索しても何故か一般消費者が検索上位など、ある程度の特徴があるため、それなりには見分けることは出来るが、時として引っかかってしまうため、常に注意することが必要である。を売りつけるのが当たり前なだけに、中身は一応まともなものを使用しているのは評価すべき点である。
無論、価格も無視できない要素であるが、おおむね120GBが2000円、240GBが3000円前後で提供されている。いずれもタイプはTLCである。現在一般市場に出ているCrucial, Kingston, Intel, SanDisk, Transcendなどの同じ容量のSSDと比較すると、Netacのほうが安いようだ。
それでいて性能は上記のメーカーのSSDと同等の性能を発揮している(後述)ので、低価格で良質なSSDとなるだろう。
メインストリームの2.5インチSSD”N535S”を検証する
そんな中、HP 8570wの強みでも合ったISRTを使いながらもHDDへの性能限界を感じていた私は、余っていたTポイントとPayPayでN535S 256GB(240GB)を入手した。そこで私は早速クローンを実行し、交換してその性能を確かめることにした。
見た目とCDIによる調査

見た目は特色の無い、中国製らしいともいえるほどにシンプルなものである。表面はNetac以外何も描かれていない。裏面にはシールが貼られているだけであった。モデル名はN535S256Gとなっている。実際にはこのモデルは存在しないが、何故か書かれている。CDIでの調査結果は以下の通りである。

公称値と実測値
Netac公式サイトにおけるN535Sの公称値は、Read:500MB/s, Write:450MB/sとされている。実験条件・環境はCDMv5.2.1で1000MiB, i7-5820k, G.SKILL DDR4 4GB*2, MSI X99Aチップセット, 窓8(64bit)下のデータである。
私の環境でも、CDMを使用して実測値を確認し、公称値の通りの結果が出るかを確認する。SSDを大事にするため、50MiBを3回で行っている。実験条件が異なるため、結果との差異が広がる可能性がある。

上記の結果から、公称値との差は少なく、ほぼ記載どおりの結果となった。もっとも、テストサイズが小さいため、その影響もあると思われる。この実験に限り、何故かWriteのほうが速かったのが不思議である。また、これとは別のモデルである”N550S”はASCIIがCDMでテストしているが、4GiB以降のWriteはキャッシュオーバーフローによって速度低下を引き起こしているため、大容量のデータを扱うには向かない可能性はある。ただし、N535Sのキャッシュ領域などの情報は不明である。
一般用途での使用なら最適なSSDの1つ
私の環境では、ベンチマークソフトはCDMのみのためこれ以上のベンチマークは不可能である。とはいっても、他のベンチマークソフトを使用したところで、結果はあまり変わるものでもないので、気にする必要はないだろう。
N560Sのベンチマーク結果に関しては既に情報があるため、N535Sも4GiB以上でWriteが遅くなる可能性はある。しかし、そのようなデータを作成する機会は、ゲームキャプチャを拡張子.aviでするとき、或いはHD画質で動画を出力する場合、VMwareなど仮想マシンを運用する場合など、普通に運用する上ではなかなか機会がない。そのため、一般用途のユーザには、安さも相まって最適なSSDの1つとすることもできる。入手先は基本的にECサイトとなるので、保証は期待できないことに注意。
N535Sは120/240/480GBであり、2^nの容量は存在しない
N535Sの容量は、公式サイト記載の情報では120/240/480GBのみであり、2^nの容量のモデルは存在しないのである。だがN535Sの名前で128GB、256GBがあり、日本のECサイトで見かけるのはこれである。しかし、公式には存在していないので、何故存在しない容量で出しているのかは不明である。
オーバープロビジョニングで実容量は少なくなる
一般にSSDにはオーバープロビジョニング3)SSDの一部領域を未使用領域とすること。通常、一般的なSSDでは全体の容量の7%があらかじめ設定されており、これはユーザによって変更できない。このため、エクスプローラーで容量を確認すると、実際に明記されている容量よりも少ない表示となっている。その理由がこれである。この設定は耐久性・アクセス速度・キャッシュ等の観点から必須である。メーカーによる設定のほか、未使用領域を設定するか、設定しない場合は意図的に空き領域を一定以上にしておくとより効果がある。(以下OP)が標準で設定されており、その分利用できる全体の容量は減少するようになっている。そのため、例えばN535S 256GBなら全体の7%の17.92GB(約18GB)がOPとなり、実容量は238GBとなる。これはNetacに限らず、ほぼ全ての同じ容量のSSDでも同じようにOPが設定されている。
したがって、OPも含めた容量と考えれば256GB、これを明記しないのであれば240GBとなるだろう。したがって、OP含256GB=OP非含240GBという関係が成り立つ。よって、これは偽装でも何でもないということになる。
しかし、もしNetacが方針変更により240GBをOPも含めたものとして256GBにリネームしたのであれば、それに合わせて公式サイトのほうでも修正をしてほしかったものである。そうしないと勘違いする人が出てきてしまうためである。もっとも、一般ユーザはNetacを選択肢に入れない。分かっている人は、そんなことでいちいち気にしないので、修正する必要もないと判断したのだろう。
今後の低価格SSDメーカーの有力候補
現在のSSD情勢は、パクリ王国製の○am○ungを除外して考える4)2019年時点で日本からのフッ化水素の輸出停止の対象であるため、品質低下は避けられない。今買おうとするのは危険。と、中国・台湾メーカー製の性能が伸びてきており、主流の存在であるCrucial, Kingston, Intel, SanDisk, Transcend等との性能差は徐々に埋まりつつあり、次に勝負の土俵となるのは価格である。
価格で勝負すれば、コストが安くなる中国・台湾製に軍配が上がるのは、目に見えて分かることである。台湾はともかく、今や中国でさえ日本やアメリカと同等の技術を持つまでに至った存在であり、それをぞんざいに扱うなどもってのほかである。
そんな、性能でも価格でも勝負することができるようになった中、Netacは今後の低価格SSDメーカーの有力候補として捉えることができるだろう。ただし、先に書いたように一般消費者がこのメーカーを受け入れることができるかどうかということを考えると、おそらく分かれるところではある。多くの人は中国製に怖気づいて、手を出さないと推測できる。
その不安を解消する意味で、今回のレビューは少しだけ役に立つだろう。私は積極的人柱勢ではないが、可能な範囲で「実験データ」を公表して、より広く普及することを願っている。今後、新たに検証できるものがあれば、検証してここで書いていこうと思う。
以上、Netac製SSD”N535S”のレビューであった。それでは、次回の記事で会おう。
リンクス岐部(LINKS-KIBE) at 14:16 Dec. 26th, 2019
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脚注
本文へ1 | 参照:Netac Technology – Wikipedia |
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本文へ2 | Remark: 本来の意味は「意見を言う」「述べる」だが、PC関係では主にバルク品で見られ、製品の刻印を不正に変更し、実際には安価な製品を上位の製品に偽装し販売する不正行為のことをいう。これはPCパーツに限らず、SDカードでも容量偽装のリマークが横行している。これらは文字フォントが異常であったり、価格が妙に安すぎる、ネット上に情報が少なすぎるか全く無い、メーカー名で検索しても何故か一般消費者が検索上位など、ある程度の特徴があるため、それなりには見分けることは出来るが、時として引っかかってしまうため、常に注意することが必要である。 |
本文へ3 | SSDの一部領域を未使用領域とすること。通常、一般的なSSDでは全体の容量の7%があらかじめ設定されており、これはユーザによって変更できない。このため、エクスプローラーで容量を確認すると、実際に明記されている容量よりも少ない表示となっている。その理由がこれである。この設定は耐久性・アクセス速度・キャッシュ等の観点から必須である。メーカーによる設定のほか、未使用領域を設定するか、設定しない場合は意図的に空き領域を一定以上にしておくとより効果がある。 |
本文へ4 | 2019年時点で日本からのフッ化水素の輸出停止の対象であるため、品質低下は避けられない。今買おうとするのは危険。 |