この記事の概要を簡単まとめ!
- 障害がある人向けの「就職に向けた訓練をする」場所
- 利用には役所から「障害福祉サービス受給者証」を発行してもらう
- 体験利用は受給者証が不要
- 1週間体験利用して分かった「マイナスになることはない」
- 文明社会に戻る「一歩」
日本の社会は残酷に出来ている。既定のレールが敷かれており、そこから脱線することや乗れなかった場合に戻るためのサポートが最低限のものしか用意されていない。それは何らかの障害を持っている人も例外ではない。残念ながらそういう人に社会は冷たい。復帰や活躍の場を与えないかのようである。それでいて仕事や生活に健常者と同じレベルを求めるのだから、尚更タチが悪いように思える。求めるものが「その人たちにとって」高すぎるものになっている気がしてならない。
それに対して国の打ち出す政策は微妙なのだが、少しずつ改正されてきてはいるようである。就労移行支援は、何らかの障害を持っている人向けのサービスの1つである。また、就労移行支援として1つにまとめられているが専門分野がそれぞれ違っており、身体・知的・精神(発達)のそれぞれ1つのみに特化している場合もある。
結局私は一時的な強いストレスによってADHD(不注意)的症状が出たもので、実際のADHDとは違うものであった。そのため普通の手段で復帰するしかなくなったが、その間に発達障害専門の就労移行支援を「体験」した。今回はそのことについて書いていく。
ひとっ飛びできる目次
就労移行支援
就労移行支援の概要
就労移行支援は、障害者総合支援法における就労系障害福祉サービスとして、就労移行支援事業が規則第6条の9で定められている。以下は厚生労働省のサイトからの引用である。
就労移行支援事業(規則第6条の9)
事業概要:通常の事業所に雇用されることが可能と見込まれる者に対して、(1)生産活動、職場体験等の活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練、(2)求職活動に関する支援、(3)その適性に応じた職場の開拓、(4)就職後における職場への定着のために必要な相談等の支援を行う。(標準利用期間:2年)
※必要性が認められた場合に限り、最大1年間の更新可能
対象者
(1)企業等への就労を希望する者
※平成30年4月から、65歳以上の者も要件を満たせば利用可能。
報酬単価
502~1,094単位/日 <定員20人以下の場合>
※定員規模に応じた設定
※就職後6月以上の定着率が高いほど高い報酬
厚生労働省 障害者の就労支援対策の状況 1 障害者に対する就労支援
※表より該当事項のみ抜粋、環境依存文字を一部変更
このように、障害を持ちつつ、民間企業へ就職が出来そうな人が、市や区の指定を受けた就労移行支援事業所で訓練を受け、当事者の適性について当事者自身で探したり、また職員と共に探していき、その適性の強みの発見と弱みへの対処などを行い、自分では対処しても難しいことには「配慮」をお願いする。そして適性に向いた、適性を理解してくれる職場を探して、就職後も継続して働けるようにサポートを受けることができる。それら一連のことを行う場所及びサービスである。
利用に必要な手順
就労移行支援は国の公式なサービスであるため、利用には役所的手続きを行い、障害福祉サービス受給者証を発行してもらう必要がある。この手続きは自分の住所の自治体(基本的に区役所)で行う。詳細はそれぞれの自治体で異なるため、自分の自治体に直接足を運んで確認したり、電話で聞くのが確実である。なお、私の場合の流れは以下の通りであった。
- 役所の高齢・福祉課といった、福祉関係を管理する課へ行く。
- ケースワーカーと相談する。担当者は住所により決まっている。この段階では相談のみであった。
- 後日、障害を証明できるものを持って再度同じ場所へ行く。自立支援医療を利用している人は確実に申請できる。または確定診断の診断書でもOKである。
- 必要書類に記入する。
- その後、自治体で審査され、これに通ると障害福祉サービス受給者証が郵送で送られる。これには2週間~1ヶ月の幅がある。
私の場合、診断書を貰ったときに確定診断ではなかったため、3の時点で利用しないということをケースワーカーと相談して決定した。そのため、書類を記述すること以降はケースワーカーから聞いたものをそのまま書いている。実際に手続きに進んだ場合、この限りではない可能性があるため注意。
「受給者証」がなくても「体験」では利用できる
結局私は一時的な強いストレスによってADHDに非常に似た症状が出ていたということで、確定診断ではなかった。これでは受給者証を申請するのは難しく、就労移行支援を利用できないことを意味する。
しかし「体験」であれば、受給者証は不要である。体験でも就労移行支援施設の利用は受給者証を発行してもらい、利用計画を立てた後で実際に利用するのと同じように利用できることが多い。体験利用でのカリキュラムは生活で役立つスキルを学ぶことが中心となる。これは後述する。
体験利用は数日~2週間が多い。最長で1ヶ月を体験した人もいるようで、体験自体に期限はないようだ。とはいえ、1ヶ月以上は流石に長すぎると思われる。
某所での体験記録
初めての利用体験は半日の講義スタイル
初めての利用体験は、1月中旬に午後から開始の講義スタイルのものであった。その内容は「障害者雇用の現状」というものであった。本来は教科書を使用するものであるが、この日は体験用にPowerPointにまとめたものを使用した。
当時は参加者が私1人ということもあって、ほぼマンツーマンで話が進んだ。もっとも、体験用に編集されたプログラムであるので、実際とは違うこともある。実際は教科書をもとに、他の利用者と討論をしながら進めていくのが主流である。
講義の内容は就労の種類と、障害者雇用枠における障害の種類による平均月収の違い、企業における法定雇用率と特例子会社、そして企業の動向についてであった。1回90分で進行もゆっくりなため、それぞれの項目について重要となる部分を中心に解説していった感じである。
このときは障害別に平均月収が異なっていることを解説してもらった。その解説によれば、令和元年5月時点でのデータでは身体障害が21万5000円、知的障害が11万7000円、精神障害が12万5000円、発達障害が12万7000円とされている。
身体障害の場合は元々普通だった人が事故や病気で身体の一部に後遺症が残り、元々働いていた会社で障害者雇用枠での再雇用パターンが多いため、それらが平均を押し上げている。また、それ以外に関しては勤務が安定しない人がいるため、それが平均を下げていることが多いようだ。そのため平均はあまりあてにならないものと思われる。
それ以外は法定雇用率の条件と対象者や特例子会社のルール、企業の動向などを解説してもらい、終了である。体験ということもあり、さわりの部分を行ったような感じである。
一日通所を一週間体験する
その後しばらくして一日通所を行うことを決定した。これは2月最終週から3月1週目までの8日間である。1週間は短いようで長いと感じることが多い。
毎日行うこと
体験でも行うことは通常の利用者と変わらない。体験した場所では朝にセルフケアチェックシートと一週間日誌というものを記入する。
セルフケアチェックシートは睡眠時間、三食の記録、薬の服用記録と自分の「良好」「注意」「悪化」サインを自由に書き込み、そのサインが出ている場合は○をするというものである。またその理由を右端に記入することができる。これには自分がどのようなときに体調が良くなるか、或いは悪くなるかを自分で把握する狙いがある。
1週間日誌は基本的に月曜日に1週間の予定を1時間単位で立てて、さらに実際に行動した記録を書く。これにも睡眠時間、服薬の記入欄があり、午前・午後の気分(10段階評価)、セルフケアチェック(サインと原因をそれぞれ記入)、実践したこと(訓練で学んだことをベースで記入)、反省点と改善点を記入する欄がある。これは、予定通りに行動することでセルフケアをする目的があるが、実際の行動記録を残すことで「何をしたら体調が良くなる・悪くなる」を把握することの方が重要である。セルフケアに重点を置いていることがよくわかる。
これには、所謂「配慮」を得るための手順である。この移行支援施設に限らず、自分で対処して(セルフケア)、しかしどうしても上手くいかないことに関しては「配慮」という形で仕事ができるようにするものと考えているためである。まずはセルフケアができるようになることが、復帰への第一歩となるようだ。
実際の職場を想定して進行する訓練
就労移行支援とあっても実際の職場と乖離していては意味がない。そのため、訓練は実際の職場を再現したものとなっている。ただし、体験は講義スタイルの訓練のみであり、同時に実習的なことをしている人はいなかったため、これから紹介するのは講義のみである。
訓練は10時に開始される。実際の職場を想定して、朝礼を行う。ラジオ体操や発声練習、マナーチェックを行う。また、今日の目標設定(何でもOK)、3分間スピーチ(これも何でもOK)など、一般的な朝礼を模しているようである。
訓練は午前・午後ともに90分である。講義のスタイルは、会議室のようなレイアウトで、教科書を使用してホワイトボードに書かれたことをノートなどに書いていき、途中で参加者同士での討論などを行う。と言っても、各個人で考えたことを発表しあって、それについて考えていくというパターンである。これは会議を模しているものと考えられる。ここで積極的な発言と傾聴を身に着けることを目的としているものと思われる。
昼休憩は12時から1時間であり、ここで昼食を取る。外で食べてきてもよく、コンビニなどで買ってきて食べるのもOKである。私が体験した場所では、レンジやポッドなどが揃っており、これは利用者も使用していいとのことである。昼食後は午後の訓練開始まで自由に過ごしていい。
午後の訓練もスタイルは同じなので割愛する。午後の訓練が終わった後、利用者と職員全員で掃除をする。部屋の使用したものとトイレを清掃する。これが終わると終礼を行う。朝礼の目標設定の振り返りと、共有事項の確認をして終了である。終礼が終わるのは15時である。
終礼後は16時まで自習時間となる。この時間の間は訓練の復習をしたり、日誌とセルフケアを書いたりする。それらが終わってやることがなければ、帰宅することも出来る。ただし営業時間は最長16時なので、16時には全て終了している必要がある。
以上が訓練の流れである。
一週間体験して分かった「マイナスになることはない」
前述をふまえ、一週間という短い期間ではあったものの、体験して分かったことがある。それは、「この経験はマイナスになることはない」ということである。
私が体験で訓練を受けた内容としては、アンガーマネジメント、コントロールフォーカス、傾聴、KPT法、問題解決力、特性についての理解など、巷ではお金を払うセミナーでないと受講が難しいものである。これらは教科書のごく一部であるが、受講したことには意味があった。
アンガーマネジメントは、現在のストレス社会には必要な技術といえる。特にインターネット上にはストレス要因が多く、精神が不安定になる原因となることが多い。本来は対人コミュニケーション向けの技術だが、様々なコントロール方法を教えてもらったため、それ以外でも応用が利くようになった。他にも傾聴においては、様々な返答の仕方を教えてもらい、会話テクニックの習得に役に立った。
このように、1週間と言う短い期間ではあったものの、普段の生活に役立つことを学んだわけである。これらは人によっては散々やってきたことであることだ、という人もいるだろう。だが、たとえ同じことであったとしても、やる度に違う意見や考えを取り入れることが出来る。内容が同じでも、過程が違えば、それもまた新しい知識となる。したがって、「マイナスになることはない」ということがわかったのである。
文明社会に戻る「一歩」として
就労移行支援に関しては、存在こそ知っているが一体どういうものなのか、ということが分からず、当事者ではあるものの利用を躊躇している人は多い。「酷い」就労移行支援施設の情報が匿名系で上がっている。それが事実かどうかはともかく、そのような情報を見てしまったがために余計躊躇してしまう人も多いだろう。
私は一時的な「症状」が出ていただけなので、結局本利用することは出来なかったものの、体験だけでもためになることを習得できた。これは今の生活に取り入れて上手くコントロールできるようになっている。よって、体験だけではあるが、ちゃんとしたところなら確実に「文明社会」に戻る一歩を踏み出せるはずである。諸事情により名前を出すことは出来ないが、発達障害専門の就労移行支援事業者で、首都圏にある場所である。私が体験した事業所は最近新しくオープンしたところである。
ポイントは、大手で首都圏のところを選ぶということ。間違っても中小の事業者は選ぶべきではないし、たとえ大手でも地方の事業所は「はずれ」が多いため、首都圏の事業所を積極的に選ぶ必要がある。なお、大手の就労移行支援事業所の殆どが定員いっぱいで、3ヶ月も待たされることがある。そのため早めに動いて利用できるように動くようにするといい。
以上、某就労移行支援を1週間体験利用した感想であった。それでは、次回の記事で会おう。
リンクス岐部(LINKS-KIBE) at 00:00 May 22th, 2020
スポンサーリンク